魔女の小さな冒険

魔女のちいさな探検

ゆっくりゆっくり進みます。

重力下で散乱する気体−−−袋詰めを重ねたモデル×マクスウェルの速度分布

 前々回、重力下で理想気体の温度、圧力、数密度を計算しました。圧力は上空に行くと指数関数的に低下して、この部分は実際の大気をうまく説明できていました。温度は一定で、実際の大気とは異なります。数密度は、窒素と酸素で分子の重さが異なるので、若干重い酸素は窒素より『沈んで』しまいます。この問題を解決するために、気体分子同士がぶつかる散乱を考慮します。

 まず、前回の、重さのない袋を使って、散乱を表現してみます。

 袋の中の分子の速度分布関数をマクスウェル分布にします。前回同様、ある一つの袋の底面をz、天面を z+Δz とします。袋の底面から垂直初速度 v_z で上方に飛び出した一つの分子を考えます。ただし今度は、 v_z は各分子ごとに異なって、全分子の速度分布はマクスウェル分布です。分子が天面まで到達する条件は

mv_z^2/2 ≧ mgΔz

天面まで到達した分子は重力でわずかに減速して、他の分子と衝突します。ここで速度の水平成分とエネルギーをやり取りして、上面の温度とします。
 ところで、今回は、速度分布関数をマクスウェル分布にしました。マクスウェル分布の理想気体は、重力で運動エネルギーを失う代わりに、温度一定のまま数密度が小さくなります。だから、袋の天面で他の分子と衝突して速度が変わっても、天面の温度は変わりません。つまり、非理想気体でも上空で気温は一定です。(当たり前だ(^^; )
 もう一つ、大気の成分は袋で括って(くくって)いるので上空まで一定になりますが、これはモデルとしておかしいです。

 まとめです。上空で気温が低いのは、分子の衝突とは関係ないことがわかりました。そもそも、熱平衡とは、系の温度が一定であることです。熱平衡を仮定している以上、上空で気温が下がらないのは、うまく計算できたと評価して良いのでしょう。

 この解釈だと、現実の大気では高度が上がるほど気温が下がるのは、熱平衡ではないから、ということになります。地上から空に向かって、熱が流れています。熱源は、太陽光に温められた地面か、地球内部の熱い核かでしょう。
 太陽熱については、以前、地球の昼間の雲の動きを早送りで見たことがあります。日本辺りの緯度では南北とも雲がゆったり流れているのに対して、赤道付近は雲がぐつくつ沸くように回っていました。太陽熱では地表の辺りが高温になるのは明らかで、上空への熱の流れは主に空気の対流です。

 夜の雲の動きは見たことがないのですが、『放射冷却』という言葉があるので、輻射熱で地表の熱が宇宙に放出されるイメージなのでしょう。
 ・・・もしかすると、このイメージは私の勝手な思い込みかもしれません。雲のない日は『放射冷却』のため夜間の気温がひどく下がると言われています。逆に雲のある日を考えてみます。曇りの日に上空の気温が少し下がったら、水蒸気が過飽和になって、雲の水滴が少し大きくなるでしょう。このとき、気化熱で発熱するので、気温の低下は抑えられます。
 この辺りはネットで調べられそうです。またそのうち(^^;

前回:[重力と気体の熱力学]重力下の3次元スーパーボール気体−−−散乱がある場合 #mixi_diary 早咲の日記 2019/05/13/1971506052

次回:[重力と気体の熱力学]気体分子の平均自由行程

 

参考:

大気の圧力 国際標準大気 - Wikipedia (2019/6/14)

地球の大気 地球の大気 - Wikipedia (2019/6/14)

参考:小野周・豊田博慈 訳(1969). 『ランダウ・アヒエゼール・リフシッツ 物理学 力学から物性論まで』岩波書店